江口 彰 Laboratory

分野は、“教育” “映画” “まちづくり”。次世代への取組みを分かりやすく考えてみる。

ゴールに魅力があることと“ナナメの関係”

Posted on | 6月 19, 2011 | ゴールに魅力があることと“ナナメの関係” はコメントを受け付けていません。

先日、富山大学のキャリア支援担当の先生方にお会いしました。約1時間半様々なお話をさせていただくなかで、地方の国立大学の実態をお聞きすることができ、首都圏や関西圏はともかく札幌圏もまだ恵まれている環境であることを認識しました。しかしながら、抱えている悩みが似たようなものであることは変わらないようです。

その悩みとは、学生のメンタル面で特にモチベーションについてのことに集約して意見交換を行いました。私の経験から申し上げたことは、まずはゴールが魅力的かどうか、といったキャリア支援カリキュラムの問題点を指摘したことです。キャリア教育の主眼におかれていることはプロセスを考える領域であるから、インターンシップのように、どこかの企業に体験することや研修するといった中身を考察する場合が多く、何を目指しているのかをあまり問わない傾向にあります。その研修先の企業が何を目指しているのかは、あまり問わないわけです。

学生の視点から考えると、最先端技術を持っている企業や、真新しい企業、よく知られている企業、といったような体験先があったとしても、その体験プログラムのゴールは魅力的に映るのでしょうか。やはり就職しない限り中身の深い体験はできないと思います。高校野球で甲子園を目指すようなレベルでの気持ちの入れようは、なかなか生まれないでしょう。ですからモチベーションを問題にする場合は、インターンシップや従来型のキャリア支援プログラムでは限界を感じてしまいます。もし仮にうまくインターンシップでマッチングでき、モチベーションや意識変化を起こさせた場合は稀なケースで、多くの大学生にそのタイミングを与えるのは至難の業ではないかと思うのです。

そこで自分が行っていることは、サークル活動の目標であるゴールを魅力的なものにすることから考えて、プログラムを組みはじめたことをお話させていただきました。例えば、北海道大学で行っている映画関連プロジェクトは、そのもののゴールに魅力を感じるような発想を構築してスタートさせています。大学に映画館があるって素晴らしいとか、本物の映画を作ってみるというのは面白い、といったような事柄は一般学生がイメージしても魅力を秘めていると思います。その他には、自分たちの通っている大学に対して不満があるならばそれを解決するという試みをゴールにすると、それも彼らにとって魅力的に映るものを作り出せることもあります。例えば大学祭がつまらないと思うのならば、面白いものに変えてみようというようなゴール設定です。

そしてゴール設定がある程度決まったら、キャリア支援的なプロセスについて考えていくことになります。よくあるケースは、面倒くさいからやらないというパターンです。学祭はつまらないけど、計画を考えたり実行するのは面倒だし、大変そうだし、そんなことやるなら学祭はつまらなくたってよい、といった考え方をする、あきらめるもしくはがんばらない人です。他には、学祭を変えるのにメリットがあるとやるというパターンもいます。例えばバイトのようにお金をもらえるならやります、というような人です。これもややズレた考え方を持っていると思います。今の社会は、個人の私的メリットだけを求めて成り立つほど資源の余裕が無くなりつつあります。ましてや大学祭ですから、金銭的メリットを求めるパターンは友人知人が離れていくでしょう。こういった人をもっとアクティブに主体性を持って挑戦することや道徳や倫理観の良識を得た社会人に変えていこうというそのプロセスこそが、キャリア教育の本丸といってよい部分になるところだと思います。

この意識変化への流れは、NPOカタリバで行っている“ナナメの関係”といったコミュニケーションの場が効果を生みそうであると感じています。カタリバは、高校生と大学生といった立場のコミュニケーションの場ですが、サークル活動ですから先輩やOBOGとの対話になります。それは親近感があるので、気づきやすく、リアリティを持って思考にしみ込んでいきやすくなります。ましてや課外活動ですから、体験頻度は1年〜4年といった長いスパンでコンスタントに起きます。インターンシップのように長期といった半年よりももっと長いスパンで体験でき、これは学生生活の日常にしみ込んでいくものです。しかしながらこの場も魅力的な先輩やOBOGがいれば機能しますが、必ずしもコンスタントにそういった先輩がいるとは限らないわけです。そこが現状の問題として抱えているという話をさせていただきました。

social media essay

もう一つは、大人社会でも魅力ある人との遭遇があまりないのではないかという話もさせていただいています。プロジェクトを進める上で様々な社会人と学生が接点を持ちますが、がっかりするといった経験が多いのも事実です。そして震災の対応などのニュースも含めて社会そのものに魅力を感じていない若者が多くなっているのも事実です。今、学生たちの世界よりも大人社会のほうが問題なのではないか。だからこそ、学生は何かしら一歩を踏み出せない、出そうとも考えない、そういった問題をお伝えして時間切れとなりました。

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