「カタリ場」という授業を改めて考える(その3)
Posted on | 4月 11, 2015 | 「カタリ場」という授業を改めて考える(その3) はコメントを受け付けていません。
Tweet | |
カタリ場の授業を展開するためには、多くの大学生が集まってこないとなりません。ボランティアですから、主に学生たちの口コミで勧誘や広報で集まってきて、毎回はじめてカタリ場に参加する大学生が存在しています。彼ら初参加者には、特に重点的に研修に参加してもらうわけですが、その構図は本番のカタリ場に似たような場を作り出しています。
カタリ場の研修は地域によってかなり差があるのですが、基本はワークショップスタイルで進めます。ですから、[大学生]⇄[高校生]が「はじめまして〜」とあいさつしてからグループワークをスタートさせる本番のカタリ場と、研修時に[カタリ場経験した大学生]⇄[初参加大学生]が「はじめまして〜」とカタリ場の解説する場面は、かなり類似しています。特に北海道では、学年別参加優先度という制度を引いていますので、研修時には3〜4年生の先輩大学生が1〜2年生の初参加後輩大学生へ研修を促すというケースが多発する仕組みになっています。
この時、カタリ場と似た様な効果や変化が初参加大学生に起きるかどうかがポイントになってきます。カタリ場で高校生と向き合う前に、学生自ら間接的に体験した(カタリ場本番を直接経験とすると、研修は間接経験と捉えることができる)研修経験を積み重ねていますので、カタリ場の質的担保がある一定ラインまで持ち上げられていきます。ただし、動機付けという意味で高校生と大学生とでは少しずれています。高校生にはこれからの人生に向けて前向きになる一歩を踏み出そうといった動機付けを促しますが、大学生にはこれから高校生と向き合って語り合うぞ、といった動機付けを喚起させるのです。それは同時に、カタリ場について興味をそそるようなことでもあり、友人に誘われてなんとなく参加した大学生であっても、本気さや真剣さを身につけていくことになります。何よりも自分の高校時代と向き合う作業が徐々に注入されていきます。研修のワークの過程で、高校生の立場になって話をしたり話を聞いたりする場は、自分自身の高校時代を振り返りながらイメージを作っていく作業でもあります。この過去の自分と向き合う態度というのが大学生の研修で大きな視点となっていきます。ですから、研修を経験するだけで大学生がどんどん変わっていきますし、それができるからこそ、カタリ場で高校生と向き合っていけると考えられるのです。
北海道の研修スタイルは、はじめて参加する大学生たちに9時間のワークをしてもらってから、本番カタリ場に臨みます。この9時間という時間枠(3時間を一コマとして3回受けてもらいます)は、いまや全国のなかでも北海道だけの特徴で相当手厚く研修をしているのですが、そのぶんはじめて学生が参加してもらうには参入障壁として敷居が高いのも事実です。ですから、集めるのに四苦八苦している現状もあります。このあたりは少し課題になりつつありますから、今後このシステムを維持していくための工夫を検討することになると思います。
他の地域では概ね2〜3時間程度の研修を終えてから本番に臨みます。なぜ北海道だけこのようなシステムになったのでしょうか。
一つは、自分がもともと大学生のキャリア教育関連の研究を大学院時代にやっていたことがあります。大学院進学以前からずっと学生たちとプロジェクトを立ち上げたり、喧々諤々と試行錯誤をし続けてきた経緯がありました。自分の関心事は、大学生から社会人への移行にかかわる期間で、能力を身につける学びについて考えていくことでした。そのため何かしら学生コミュニティを形成して運営していくことをやり続けてきたわけです。経験学習や組織学習の理論を学びながら、ワークショプの類なものを一通りやってきました。それを大きく形にしたのが北海道大学での映画祭構築や映画制作に結びつき、一定の成果を上げていたのです。
そしてもう一つ大きな出来事として、北海道で最初にカタリ場を実施したときの研修がたいへん素晴らしい内容でした。2泊3日の研修とカタリ場本番といった行程だったのですが、これが非常に中身が濃くたいへん意義のあるものだったのです。リードしてくれたのは、当時東京から来てくれた10名の学生たちです。道内で集まった30名の大学生たちとともに実施しました。この研修は初日の夕方から2時間程度ワークをして歓迎会を開催。2日目は朝9時から21時までびっちりとワークを行い、3日目の早朝から旭川に移動して、午前と午後と2つのカタリ場(1年生と2年生)を成し遂げて、打ち上がる(宴会)という流れでした。この時の宴会には、実施校の校長先生やPTAの役員もいらっしゃって、今まで66回のカタリ場を実施してきましたが、すべての現場を振り返ってもかつてない盛り上がったエキサイティングな日であったと思います。
この時の研修内容をしっかりインプットして、オリジナリティのある研修プランにカスタマイズしたことと、何よりこの時の体験をした30名の大学生たちが、この体験を基準にその後のカタリ場を考えはじめましたので、相当高いレベル感で意識を共有して進めていくことができたのは、大きな財産だと振り返ることができます。