江口 彰 Laboratory

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若者の投票率を上げるためにはどうするべきか

Posted on | 3月 30, 2015 | 若者の投票率を上げるためにはどうするべきか はコメントを受け付けていません。

統一地方選挙の時期になりました。毎回思うこととして、若者の投票率をどうにかしてあげないとならない。そういった話がポツポツと話題になります。若者に投票行為を促すようなイベントも開催されます。つい先日、札幌でも札幌市長立候補予定者を招いたディスカッション形式のイベントを学生たちが企画していました。しかしながら、その効果は限定的でなかなか裾野が広がっていきません。どうしたらよいのでしょうか。

二つのポイントを考えてみます。一つは量の問題で、とにかく投票数を上げるということです。これは選挙の仕組みを知って、とにかく投票所へ足を運んでもらうということですが、この量について例えばタレント議員などを招聘して若者や主婦層への浸透を試みるということが、これまで成されてきました。しかしこのやり方もそろそろ潮時な感じもします。そしてこれらは選挙広報やマーケティングの類の領域でもあるでしょう。

もう一方は質的な問題で、しっかり考えて投票しているかどうかということです。単なるキャッチコピー、知っている知らないということ、写真の顔つきがいいとか悪いとかで投票行為をしてしまっているのではないか、という問題です。昨今のメディア問題や超情報化社会での情報の流れを読み取るなど高い教養レベルがあるかないかで、質的なものは変化します。何よりも今の社会は複雑で多様化し分かりにくい。分かりにくいものを無理やり分かりやすく整理して喋れる人に票が集まる、というのも度がすぎるとナンセンスな結果になるかもしれません。ワンフレーズだけでは語れないわけです。

とにかく、こうした二つのポイントを考えて見るだけでも、若者の投票行為の向上を培うにはコツコツとした教育システムを作るしかないと思います。その大きな枠割を担うのは小中高の社会科の授業がポイントになるでしょうし、そして学級運営や部活動などの課外活動も含まれてくると考えます。

子どもが選挙のような行為に初めて触れる機会は、小学校のクラス運営のときでしょうか。班を作ってリーダーを決めなさい、といったことを経験した人が大半だと思いますが、まずこの見える範囲のクラスメイトの中で選ぶ人選ばれる人というのが発生します。このときからその範囲は、学級委員長の選任や児童会長、生徒会長などそのコミュニティの輪が広がっていきます。年齢を重ねるとその輪が大きくなっていく段階が存在しています。地方の郡部だとこの輪の広がり方が一定のところで固定化されるので、その問題はあると思いますが、この学校運営やクラス運営をもうちょっと工夫して行ってみることが、まず一つ大事な試みなのかと考えられます。特に、各段階ごとに選挙をする前と後のフィードバックをすること。これをするだけでも、選挙そのものへの学びが広がっていくと思います。だんだんと大きな輪での選挙活動に関わる過程のなかで、関心が薄れてくる子どももいるでしょう。そこはさらっとに流すのではなく、なぜそういった関心が薄れてくるのかを考えるワークをやってみるもの手だと思います。何事もやりっぱなし感が勿体無いわけです。

次に部活動などの組織活動での学びです。ここでは主に「信頼」を学ぶことだと思います。大学生の組織活動でも彼らの発する言葉に「仲良くなる」というのがキーワードなのですが、この仲良くなるという視点は、小中高時のクラスメイトとのやりとりのなかで培ってきたものだと思います。この仲良くなることだけだと結局は見える範囲、一緒に遊べる範囲でしか成り立ちません。年々学年が上がることに児童会長や生徒会長選出時などは、仲がいいか悪いかと言われると、大きな学校規模になれば知らない人に投票しないとなりませんから、だいたいイケメンだとか、噂や評判というもので投票するとか、そういった類の行為になりはじめます。そのために選任の基準の一つに「信頼」を据えることが考えられます。この「信頼」というキーワードは、リーダーシップ論でのリーダー像のなかでもトップ項目に上がってくるものです。この「信頼」を学ぶ場として培っていけそうな学習環境は、部活動が最もふさわしいと考えられるでしょう。部活動は大会など競技や技術などを競う過程があるためにチームワークが求められるものが多々あります。そのとき、結果を出すためにも「仲良くなる」から「信頼できる関係づくり」ということがポツポツと発生してきます。例えば、あの先輩は確実に団体戦で一勝を取ってくれるだろう、といった思いは、先輩の競技の技術に対する信頼であって、仲がいいということではありません。こうした関係づくりや対人評価のポイントがわかってくることで、学校運営の投票行為とつなげて考えてみるということができれば、ぐっと高まってくると考えられます。

そして最後は社会科の学びです。これは単にテストの点数を取るためとか受験のためではなく、学校という社会から外に向けての関心の輪を広げていくというものです。それは空間的広がりと時間軸での広がりと両方学ばないとなりません。学校内でのコミュニティは先に述べた学級運営や部活動で良いですが、自分の住んでいる地域や市町村、広域自治体、都道府県、日本、アジア、世界といった空間的なものの学習と、今現在と歴史的文脈(時間軸)の学びは、選挙行為の質や広がりを進めるためには必要なことになります。特に欠落しているのが現代史の扱い方です。以上のように、大学入試といった目標を掲げるのではなく、もっと社会を良くするための有権者教育のような文脈を作り上げていかないとならないとは思います。

このように有権者教育をコツコツ学ぶためには、これまでの学校教育の既存の仕組みを活用したデザインを生み出さないとならないでしょう。教育効果は長期的な視点が大事ですから、ある意味若者の投票率が低いのは学校教育の結果であるという考え方を持って組み立ててみることが必要なのかと思います。

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